フランスにモラリストという文筆家の系譜がある。16~18世紀に活躍したモンテーニュ、パスカル、ラ・ロシュフーコーらが代表であるが、時代を超えてフランス文化全体の底流をなす伝統でもある。ここでモラルとは道徳のことではなく、人間の心理や情念を分析して、その本質を短い言葉で表現するという意味である。時流におもねらず、成果をひけらかさず、ひとつの見かたに偏らず、ユーモアを絶やさず、学説も派閥もつくらない保崎先生こそ、モラリストの王道を歩まれた類まれなかただと思う。それが本書のタイトルを『あるモラリストの精神医学』とした理由である。
(著作集/解説より)
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